映画小僧の偏見映画研究

ただの映画好きによる映画研究

たかが世界の終わり

ダンケルクが観たい、、、

 

それはさて置き、本日の作品はこれ。

 

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「たかが世界の終わり」

2016年のカンヌのグランプリ作品です。

日本では今年の2月から公開で、僕は渋谷のアップリンクで6月ぐらいに観ました。

 

監督は天才、グザヴィエ・ドラン。

マイマザー、Mommy、私はロランス、といった作品があり、28歳にしてもうカンヌの常連。カンヌの審査員も経験しています。

僕はMommyが初めてみたドラン作品で、そこから年も近いのもあって影響を受けている、というかずっと気にしている監督です。

元々子役で、上記のマイマザーでは主演も兼ねてます。

自己投影型の監督で、天才の代名詞みたいな人です。

しかも男前。

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 愛と葛藤というテーマに毎回とことん向き合っている監督ですが、今作のテーマは家族。

 

 

さて映画ですが、、、

 

 

 

またやられました。

 

映画が終わった後、久しぶりにショックを受けました。

 

ドラン、やっぱりすごいわ。

 

映画は元々が劇作なだけにほとんど会話劇なんですけど、これがまた深い。

 

そして繊細。

 

タイトルもまたいいんです。

洋題は”It's Only the End of World”なんですけど、邦題のたかがっていうのがこれまた味がありますね。

 

今回はネタバレを含みますので、やめて欲しい方はここから注意して下さい。 

以下あらすじです。

「もうすぐ死ぬ」と家族に伝えるために、12年ぶりに帰郷する人気劇作家のルイ。母のマルティーヌは息子の好きな料理を用意し、幼い頃に別れた兄を覚えていない妹のシュザンヌは慣れないオシャレをして待っていた。浮足立つ二人と違って、素っ気なく迎える兄のアントワーヌ、彼の妻のカトリーヌはルイとは初対面だ。オードブルにメインとぎこちない会話が続き、デザートには打ち明けようと決意するルイ。だが、兄の激しい言葉を合図に、それぞれが隠していた思わぬ感情がほとばしる。

 

とにかく会話劇です。

別になにが起こるわけでもなくひたすら会話。

そしてこの会話によって家族の各々が抱えてるものが浮き彫りになっていろいろ見えてきます。

そこがこの映画の凄いとこです。

たいしたこと話してないんですよ。

でもそこから感じるぎこちなさとか距離感。12年も会ってないと、どう接していいのかわからないから、探り探りの会話になるんですよ。

で、そこには埋まらない距離があるわけです。

義理姉のカトリーヌだけは理解してくれそうな感じ。
これは血の繋がってない他人には話しやすいという皮肉です。

繊細ですね。

表現がおしゃれです。

 

主人公のルイは死を告げに帰ってきたんですが、その理由や家を出た理由はほとんど説明が無いんです。

なのに緊張感ある演技と言葉だけで12年という歳月を物語らせ、濃厚な映画にしてます。

素晴らしいです。 

 

家を出た理由は、完全に僕の解釈ですが、ルイは家族に馴染めなかったんだと思います。

同性愛者ということが映画の中でわかりますが、それも家族に受けいれられないと思ったんじゃないかなと。

母ちゃんも兄ちゃんも短気で感情むき出しタイプですし、結構ヒステリックな一家です。

繊細で内気なルイは家族と向き合うことが怖かったんだと思います。

それともそんな家族に嫌気がさしたんでしょうか。

12年ぶりに帰った理由は、なにか変わるんじゃないかという期待だったと思います。

人によっていろんな解釈ができそうです。

 

もうすぐ死ぬと家族に伝えるだけなのに 、なかなか伝えれない。

そもそも勝手に家でて12年も帰らないで、もうすぐ死ぬから言いに帰って来ました。ってエゴというか勝手ですよね。

だからこそなかなか言えないわけですよ。

 

最後に食事の最中に打ちあけようとするんですが、兄ちゃんのアントワーヌが強制的に帰らそうとします。

言わせねーよと。

気付いていたんでしょう。

父親がいなくて、弟は勝手に出て行って、兄ちゃんは頑張ってたんですよ。

誰よりも家族のために努力してるんですけど、おかんや妹にわかってもらえない。

家族を守るためにルイを追い出しますが、これも兄ちゃんのルイへの優しさだと思うんです。

言わせたら家族の平凡な毎日が崩れそうで、、、

そこで家族全員の感情が爆発しちゃいます。

もうド修羅場。感情の戦争です。

でもその全てが愛なんです。

もう胸が痛くなります。

いろいろ悟ったルイは結局言えずに帰ってしまいます。

兄ちゃん役のヴァンサン・カッセルの演技力がほんまにばけもんです。

 

最後の鳩時計のシーンも印象的です。

主人公を表現していると僕は解釈しています。

なかなか考えさせられるラストです。

最初のフリも効いてます。

 

そしてラストの照明とフォーカス。

とんでもない演出力です。

 

音楽も良いんです。

音楽のセンスの高さもドラン作品の魅力ですが、今作も素晴らしい。

オープニングのHome Is Where It Hurts、エンディングのNatural Blues。

2曲とも映画を物語ってるんですよ。

エンディングはかなり胸熱でした。

Natural Bluesが心に爪痕を残しに来やがるんですよ。

終わってすぐiTunsで購入しちゃいました。

 

映画の中で母ちゃんがルイに言ったセリフがすごい印象に残ってます。

「あなたのことが理解できない。でも愛してる。この愛は誰にも奪えない」

泣いてまうがな。

別作品の”わたしはロランス”の「この愛は誰にも壊せない」よりもぼくはグッときました。

 

 

以下はカンヌ映画祭でのドランのスピーチです。

「登場する人物は意地悪く、時に毒を吐きますが、何よりみな心に傷を負った人たちです。彼らは我々の周りにいる人たち、母や兄弟、姉妹たちの多くがそうであるように、恐怖を感じ、自信を失い、愛されていると確信できないで生きています。そんな登場人物たちの感情を描き出すことを、僕は目指しました」

 

言葉の通り、愛してるが故の不器用さを見事に描いてます。

 

こんな深い映画を当時27歳が描いたなんてもうショックですよ。

今後も大注目のグザヴィエ・ドラン。

観たことない方はこの機会に是非。

 

作品評価

4.5/5